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物心がついてそろそろ中学生というくらいになると、子供部屋をあたえるというのが一般的だといわれています。
それにあわせて家を建てる、買うということになります。
多少の差はあってもだいたいがこのパターンになります。
もちろん、なかには高校に入るまで自室はなかったという例もあるかもしれません。
その逆に赤ん坊のときから子供部屋にひとりで寝かせる、という例はほとんどないと断言できます。
けれどこれが欣末だと、赤ん坊のときから親と子の寝室を別々にするということを教育方針にしているケースが少なくありません。
アメリカの小説家、スティーブン・キング、レイ・ブラッドベリの小説には「子供部屋」の恐怖を描いたものが多くありますし、アメリカ映画にも寝室のワードローブに潜むなにものかに怯える幼児というシーンがたびたび出てきます。
これは赤ん坊のころからベビーベッドで、ひとり寝かされて育ったという体験がたぶんに影響しています。
アメリカ人たちは物心ついたときにはひとりで寝かされます。
日本の子供が自分の部屋を「手に入れる」のにたいして、アメリカの子供にとってはすでにそれは「あった」のです。
アメリカのように赤ん坊のころから子供部屋をあたえるというのは、子供が夜泣きすれば部屋に行かなければならないなど手間がかかります。
それに赤ん坊の時分にひとりで寝ることが、はたして後にどういう影響をあたえるのかよくわかりません。
そこで、ある人などは「きちんと自立できるようになってからあたえればいい。
そうすれば引きこもりなど起こらない」といいます。
ぼくはそれにたいして「自立できるようになったなら、さっさと家を出ていけばいい」といいました。
できるだけ子供を手放そうとしない親が多いなかで「家を出ていかせるために育てるのだ」というぼくの意見は、なかなか受けいれてもらえません。
たしかに「きちんと自分のことができるようになったらあたえる」というのは風あたりのいい表現ですが、ではそのきちんと自分のことをする「技術」は、どこでどうやって磨くのでしょうか?個室をもつと自分の空間、テリトリーをコントロールしなければなりません。
できなければ乱雑で混乱した世界を自分で引き受けるか、そこから出ていくしかなくなる。
個室に入ってそこを自分の世界として使いこなす技術は、訓練することによってしかついていかない。
つまり個室に入ること、自分の部屋をもつことでしか身につかないのです。
問題はいつそうするかということです。
小学校の高学年では遅すぎる。
ぼくはそうおもいます。
赤ん坊というのは極端かもしれないけれど、できるだけ早いほうがいい。
なぜなら、親と子はある局面では闘争する閲係にあります。
親が勝てるのはいつまででしょうか?それまでに個室に入れて、その空間のコントロール方法をしつけていく。
掃除から消灯までさまざまなルールづけをする。
このアメリカの親たちの方法はじつに理にかなっているようにおもえます。
生まれたばかりの白鳥ははじめて見た飼育係を、親だと勘違いするケースがあります。
このすりこみは人間にだってあてはまらなくはない。
小さいころにルールづけされたことは、大きくなってもなかなか破るのはたいへんです。
「身」についてしまったからです。
小さいころに個室の使い方を教えるというのは必須なのですが、日本の家庭教育にはその経験は皆無であり、ほとんどなされていない。
受験が近いからと野放図にあたえて、内側から鍵をかけられうろたえる親、という笑えない状況があちこちで見られます。
アメリカ人の子供に「この家はだれのものか?」ときくとたいてい「親の家」と答えます。
彼らにとって家はやがて自立して出ていく対象として認識されています。
この場合、家全体は親という「大人」の領域に属しています。
ダイニングルームもリビングルームも玄関も、それらは大人の空間としてしつらえられています。
子供の領域は自分の部屋に限定されます。
子供の領域がリビングルームやダイニングに拡張してくることを親は許しません。
だからリビングルームに子供のおもちゃがいつもころがっていたり、そこの棚に子供向けのキャラクターグッズが置かれていることはまずありません。
日本の住まいはその境界が暖味模糊としています。
全体が大人の領域のようであり子供のものでもあるような、不可思議な空間になっています。
いや、むしろリビングルームは子供中心で、おもちゃやマンガやキャラクターグッズがいつも置かれているというのがあたりまえの光景かもしれません。
そういう意味では、日本の住宅は子供化が進んでいます。
かつての床の間のように、子供がむやみに入ることができない領域がなくなりました。
たとえば欧米で大人の客をむかえてリビングルームでパーティというとき、子供はそれに参加させてはもらえません。
そのあいだは部屋にこもっていなければならない。
このとき子供の寝室は彼らを閉じこめておくべき空間となります。
住まいが一時的にも夫人だけの世界となり、子供はそこから排除される。
こうした日常はかつての日本家屋には床の間付座敷として残っていました。
それがいつの間にかなくなったのです。
リビングルームでのパーティはいわば大人の時空間、すなわち疑似社会です。
住まいのなかに疑似社会をもちこむ。
それがリビングルームの役割であり、かつての床の間の役割でした。
けれど現在の住まいのなかには疑似社会はありません。
ただ、のべつ弛緩した家族関係のみが漂っています。
子供は家庭のなかで、いくらかの緊張とかしこまった雰囲気のなかで展開される、大人の時間をまったく知らずに育っていきます。
現代の日本の住まいはとめどもなく弛緩し、子供化が進行しているような気がしてなりません。
このように現代の家庭は、子育てという点で心もとない状態になっています。
学校、あるいは近隣のコミュニティとは別の、大人になるための子育てが家庭にはあったはずです。
そのための空間がなくなってしまったのです。
けれどこれからさきも、子育てが家族の役割であることはまちがいありませんじつまりこれからも子育てという役割は住まいにひきつがれていくわけです。
私たちはいま一度、子育ての空間としての住まいを見直してみる必要があります。
住宅とは文字通り住むことをロ的とした建物です。
「居住の専周空間」といういい方もできるでしょうりその「住宅」が日本に誕生したのはつい最近のことです。
それまで人々が寝起きしていたのは「居住の専用空間」ではありませんでした。
たとえば農村において住居は、ついこのあいだまで仕事場とひとつ屋根の下にありました。
馬などの家畜と寝起きをともにしていた農民も少なくなかったのです。
そうした農家には玄関を入ると広い上間がありました。
そこは農作業のスペースであり、農機が行われることもあったでしょう。
農村だけでなく都会の商店でも、店の奥が住まいになっていたり、売り場と住居がいっしょだったり、職人の仕事場と住まいがひとつ家根の下にあるということなどあたりまえでした。
やがて、この「職」と「住」が分離するときがやってきます。
明治政府は近代的生活をおくるためには、職を住からきりはなした「住宅」をつくらなければならない、と考えました。
こうして住まいから仕事=労働の場が徐々になくなっていきました。
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